…for you.
父母のいる時間
俳句&文◎中島ちなみ
写真◎南浦 護






母のゐて母の母ゐてあたたかし

淡雪やみやげに夫婦箸撰れば

夜の数の朝のありて梅匂ふ

ふるさとは雪てふ雛の灯かな

ほろ酔ひの父が朧の受話器より

花種を蒔いては母を越えられず

桜実となりて真青きけふの空

母の日の貝がらに聞く海の音

父の日の音たてて抜く白ワイン

墨の香の真中に母のゐて涼し

父に文書く向日葵のもう咲いて

ふるさとは水の匂ひの浴衣かな

水音にけふのはじまる鳳仙花

石蹴れば影の蹤きゆく良夜かな

父映し母映し水澄みにけり

その先に母待つさくらもみぢかな

来し方のみなうつくしき実むらさき

単線の果のふるさと草紅葉

雪こんこ汽笛を遠く聞く夜かな

母の背と見れば蹤きゆく冬菜畑

父とゐて波を見てゐる三日かな

川音の海へ海へと初明り

日脚伸ぶ納屋より父の呼ぶ声に

父母に日向の似合ふ枇杷の花

どうぞ、あなたにとってかけがえのない、
あなたのお父様へ、お母様へ……。

haiku&words by Chinami Nakashima/photograph by Mamoru Minamiura